その眼差しの彼方まで

アイドルと音楽と日記

230615―SixTONESの音楽がアトロクで流れた日

――SixTONESはスタンダードな音楽を目指していますが、それって具体的にはどういうものだと思いますか?

田中樹「音楽って文化だし、そこをちゃんと理解しないといけないと思うんです。(略)よく知らないまま、その文化の上澄みだけすくって音楽をやることは一番よくないけど、ちゃんと文化を理解して、リスペクトを持ってその音楽をやる。それがスタンダードへの仲間入りをするための一歩だと思います」

音楽と人 2021年9月号

 

先週の6月15日に田中樹は28歳の誕生日を迎えたが、その日にもうひとつ、SixTONESそして彼のファンとして忘れられない出来事が起きた。

RHYMESTER宇多丸がパーソナリティを務める番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でSixTONES「人人人」がオンエアされ、宇多丸が大絶賛したのである。

 

 

SixTONESと田中樹に出会うまで、HIPHOPのことは全く知らなかった。私の親は割とミーハーなのか、昭和〜平成初期のヒットソングはよく車の中で流れていたけれど、その中にHIPHOP楽曲はほとんどなかったと思う。10代になってからボーカロイド音楽に傾倒したことで、「合成音声が歌っている」こと以外共通点がない音楽を聴くようになった。ポップソングからHIPHOPの要素を汲んだもの、聴いたことのないようなオルタナティブなものまで、とにかく雑多な世界である。ボーカロイド音楽には押韻を重視した楽曲は多いけれど、HIPHOPド真ん中の楽曲を作るアーティストは多くない。田中樹に出会って、配信ライブを観て、初めてHIPHOPという音楽を目の当たりにした。それが2019年の春。彼がラップを始めてから(つまり事務所に入ってから)ちょうど11年経った頃。

最初は彼の声質とラップという歌唱法の相性の良さに心地良さを感じていた。自身が育ってきた環境と、自分の立ち位置を確立するために得た技術に対してのマインドも好きだ。でも、マッチョイズムが強いこの文化自体はそこまで肌に合わなくて、それこそCreepy Nutsちゃんみなあたりのカウンター的な立ち位置を取るアーティストをたまに聴く程度だった。

それでも、たまに日本語ラップの世界を覗いてみたりして、好みの曲があればそのアーティストの曲をdigったし、その当時週替わりのパーソナリティを務めていたらじらー!で彼がラップの話をするときにはすごく嬉しかった。好きなことに対して愛と自負を持って語る彼の声にこもった熱が、HIPHOPやラップのことを知らない私にも伝わったから。

 

2020年に入って、オールナイトニッポンのパーソナリティを務めるにあたってCreepy NutsのDJ松永からBITTERSWEET SAMBA Remixが提供された。固定パーソナリティとなる田中樹が、心の底からHIPHOPを愛しているからこその粋な計らいだった。

新型コロナウイルスの流行に伴って延期された「NAVIGATOR」の発売を盛り上げるために実施された、田中樹全国ラジオ34局ラップチャレンジ企画も夢みたいだった。radikoのプレミアム会員に初めて登録して、寝る間も惜しんで各局のご当地ラップを聴いた。声質と知識と技術を活かしたヴァースのひとつひとつが素晴らしくて、できる限りいろんな人に聴いて欲しくてOA情報をまとめた記事を書いたりモーメントを作ったりした。たくさんの要素が詰め込まれたラップを聴いた各地方局のパーソナリティが、その土地や番組のネタに気付いたときの反応も嬉しかった。私はニッポン放送の放送圏内の居住者だからそういう体験はできなかったけど、各地のパーソナリティやリスナーの感想を聞くことで彼の仕事の細やかさを感じられた。

「NEW ERA」のc/wである「So Addicted」のラップパートのリリックを担当したことが知らされたときも、飛び上がるくらい嬉しかった。この曲はKEN THE 390やあっこゴリラ、Creepy Nutsといったアーティストたちとラジオで共演した際にも絶賛されたことで、HIPHOPに明るくない私にも彼のHIPHOPに対する姿勢が伝わった。

 

その次の夏にはFNS歌謡祭でCreepy Nutsと共に「かつて天才だった俺たちへ」をコラボ披露した。田中樹のラップへの熱量を買ったR-指定は、当初予定されていた歌割りではなく、よりHIPHOP的なマイク回しをリハで提案したらしい。曲前に披露された田中樹自身が書いたリリックによるフリースタイル的なパートもすごくアツくて、HIPHOPとANNが結んだ縁と、リリックの通り、彼が仕事をやり抜いてきた先にある景色だった。

 

年が明けて発売された「CITY」には、京本大我とのユニット曲として「With The Flow」が収録された。ラップパートのリリックは田中樹が、アコギ演奏は京本大我が担当。リリックの通り彼の白T+デニムのようなラフなスタイルのヴァースが心地よい。ちなみにこの曲の作詞曲は佐伯youthK、MV監督はNasty Men$ahで、「こっから」と同じ布陣である。

 

これ以外のいろんなSixTONES楽曲についても、田中樹のラップは他のパートとは違う方向の特別さがある。レコーディングも田中樹のセンスに任されていることも分かって、彼の仕事が…誇らしいというか、…ファンの分際でこの言葉を使いたくなくてここまで書いてきたのに、他に言葉が見つからない。

私は私で、詳しくはならなかったけどこの4年の間に聴く音楽の中に占めるHIPHOPの割合はかなり大きくなった。最初ゼロだったところから、3割くらいにはなったかな。私のライブラリはアイドルとボーカロイド関連楽曲がほとんどだったところから、HIPHOPもそれらに匹敵するくらいになった。新譜が出たらチェックするアーティストもいくつかいるし、いつかライブに行ってみたいと思うアーティストもできた。ひとりのアイドルに出会って、私の世界が変わった。

 

 

俺がそれでSixTONESっていうことの根っこをしっかり俺がおさえてるわけよ!!

ANNで「Good Luck!」というSixTONESの中でも屈指のポップソングの中に入ったラップパートについて語ったときの発言である。

SixTONESの根本をおさえる存在、SixTONESらしさを具現化する存在としての田中樹、という視点はずっと持っていたけど、本人から語られたことに驚いた。6人全員大事で、この6人だからSixTONESなのは間違いないけれど、少なくとも楽曲を作っていく上では本人にその意識があることが、今後もずっと覚えておきたい記憶として刻まれた。

 

「こっから」の発売が決まって、HIPHOPについて勉強した。それまであまり機会がなくてちゃんと聴いてこなかったRHYMESTERもざっとではあるけど沢山聴いてみたし、「ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門」も読んでそもそもどういう歴史を辿ってきたのかも勉強した。この1ヶ月ずっと日本語ラップの文脈と「こっから」のことを調べ考えていく中で、この4年の間にいつの間にかHIPHOPに対する向き合い方が変わっていたことに気がついた。自担が好きな音楽、というだけでなく、私も好きな音楽になったのかもしれない。まだまだ知識が足りないし、読みたい本も聴きたい曲もたくさんあるけれど、改めてHIPHOPに出会い直した。

 

佐伯youthKという作家についても調べ直した。彼はHIPHOPが好きで、RHYMESTERを敬愛していて、Creepy Nutsとも親交があることが分かった。 佐伯youthKがそういう人生を送ってきたからこそ「NEW WORLD」があったのだと思った。「NEW WORLD」にはラップパートがある。実際のところは分からないけど、田中樹じゃなきゃ、佐伯youthKじゃなきゃ、あのラップは生まれなくて、SixTONESと佐伯youthKが出会うこともなかったのかもしれない。

 

「こっから」を初めて聴いて、HIPHOPド真ん中の、それもかなりオールドスクール的な曲だと分かったとき、冒頭に引用した彼の言葉を改めて思い出した。日本語ラップのアンセムである「B-BOYイズム」をサンプリングしたビートでラップをするのは、ただ技術が高いだけでは音楽として成立しないだろう。

田中樹がHIPHOPとラップに出会って、その後もずっと続けて、SixTONESを組んで、ラップ担当としてステージに立ち続けて、HIPHOPという文化を愛し続けてきたからこそ私は「こっから」という曲に出会えたのかもしれない。これは田中樹のオタクとしてこの曲の文脈を考えたときに思ったことで、もちろんSixTONESがこの6人だからこそこの曲に辿り着いたのは間違いない。それでもやっぱり、グループとしてこれだけゴリゴリのラップをやるようになったのは、田中樹というアイドルがSixTONESにいるからこそで、なんというか、田中樹を自担とする者として、愛していい事実なんじゃないかと感じた。

佐伯youthKが、自身が敬愛するRHYMESTERのエキスをSixTONESに託した事実こそが、彼らの音楽へのアツい姿勢が信頼されていることの証明だ。これが本当に嬉しくて、全部大切だけど、この曲は私にとって特別だと思う。彼らが音楽を愛し楽しみながら今日まで歩んできたことが、こういった形で曲になったことが、この1カ月ずっと嬉しかった。デビューしたときにはこんな景色が見れるなんて予想もしていなかった。佐伯youthKがバンドのキーボードとして一緒に音楽番組に出て、曲中もノリノリで楽しそうに演奏していたこともずっと忘れたくない。

 

 

ついに迎えた「こっから」のリリース週のさなか、田中樹の誕生日の夜、アトロクの「2023年上半期、現役クラブDJが選ぶベストJ-POP特集!」の中で、DJ arincoの選曲としてSixTONES「人人人」が流れた。

宇内梨沙:「(arincoのコメント)SixTONESの『人人人』です。2023年1月4日にリリースされたSixTONESの3rdアルバム『声』の収録曲で作詞・作曲・編曲は佐伯youthKさん。この曲は2023年1月1日にYouTube限定のパフォーマンス企画としてバンドをバックに披露されました。ラップ担当の田中樹さんだけでなく、他のメンバーのラップパートも存分にあり、元々SixTONESの楽曲は好きだったんですが、また新しい形のSixTONESを見せてくれる曲だと感じました。(略)」ということです。

宇多丸:へー。なんかそのバンドバック披露とかもかっこよさそうだし。あと、DJをやる時に確かにイントロでたまにドーン!って空気を変えられるようなやつって、便利だったりしますけども。そのド頭から注目ですね。それでは、お聞きください。SixTONESで『人人人』。

宇多丸:はい。SixTONESで『人人人』をお送りしました。かっこいいじゃん、これ!めちゃくちゃかっこいい!なんか生っぽいジャズ、ファンクテイストっていうか。その感じのバックトラックもかっこいいし。そこに乗っかるSixTONESの皆さんのラップが結構、マイクパスもの…ラッパーがそれぞれ違うスタイルの、違うフロウを重ねていく感じの醍醐味にあふれていて。皆さん、当然スキルも高いし。それぞれ、全然違うフロウを重ねてきたりして。最後の方の結構、それが短めにパスされるところとか、全曲に渡って飽きない工夫もされているし。ああ、これはかっこいい!めちゃくちゃかっこいいですね!こういうの、教わらないとなかなか掘れないから。

宇内梨沙:そうですね!

宇多丸:これ、嬉しいな!さすがarincoさん。SixTONES『人人人』。これはアルバム収録曲なんですね。ちょっと私、刮目いたしました。

 

SixTONESと田中樹という名前を宇多丸が耳にした上に、オンエア後、宇多丸が「めちゃくちゃかっこいい!!」「刮目いたしました」とまで語ったのだ。

この1カ月間ずっとSixTONESと佐伯youthKとRHYMESTERのことを考えていて、いつかどこかでRHYMESTERSixTONESが繋がる日が来たらアツいなと思っていたけれど、こんなに早いとは思っていなかった。興奮しすぎて滅多につけないブログタイトルのタグをつけてツイートしてしまった。私のツイートなんて見てほしくないけど、それ以上にこのことが伝わってほしかった。どう思ったかとかそんなのは大切にしまって教えなくていいから、きっとこの事実だけは知っていてほしい。

 

誰かに褒められればなんでも嬉しいわけじゃない。褒めるふりをして、アイドルという職とアイデンティティに対して適当なことをほざくヤツなんていくらでもいて。この4年間、心の中で何回キレたのか自分でも分からない。でもRHYMESTERという、30年以上にわたってイケてるHIPHOPをやり続けている日本語ラップのレジェンド、KING OF STAGEに音楽を褒められるというのが、それもきっとRHYMESTERを意識して作られたであろう曲が届いたというのが本当に嬉しくて。

 

田中樹とSixTONESがやってきたことが、ひとつの形で認められた日のことを、ここに記録しておきたい。私はきっとずっと忘れないと思う。

改めて、お誕生日おめでとうございます。今年も最高の1年になるね。

 

 

6月22日現在、今日までTFで聴けます。

 

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