その眼差しの彼方まで

アイドルと音楽と日記

アンガー・マネジメント

私の好きなアイドルは、怒りをエネルギーにしているらしい。

はじめて聞いたときには意味がよく分からなかったけれど、年を重ねるにつれてだんだん自分の身で実感してきた。この世にはどうやら他人を平気で踏み躙れるタイプの人間が割といるらしい。この数年で私もどうやら怒りの感情がエネルギーになり得るタイプの人間らしいことに気が付いた。担タレというやつなのかもしれない。

 

好きなアイドルが明確に人間に対する怒りがあったことを語ったのは私が知る限りたったの2回であり、実は普段は机に脚をぶつけたとかそんなことでしか怒っていないのかもしれないが、私の怒りの対象は人間だけだ。私は悪意が許せない。人間を侮辱して平気でいられるその神経が分からない。今まで私を侮辱してきた人間すべてのことを心底呪っている。人を呪わば穴二つというが、呪いたいほど憎い相手を地獄に落とすためなら自分がどうなろうと構わないとずっと思っている。地獄に落ちてからが本当のスタートで、体格差や社会的立場から現世での対等な争いが叶わないのならば、死んでからそれをやればいい。私は死んでも私の怒りを忘れない。たとえどんなに他に楽しいことがあったとしても、それはそれでありこれはこれである。私はあなたへの怒りを抱えながら精一杯幸せになり、死んだら全部あなたに打ち返す。それが私にとっての復讐だから。

 

3年前にも似たようなことがあったのを思い出した。当時もしょうもない話だと思ったけれど、それ以上に失望したのは周りの反応だった。キャラ的にノーダメだとか言ってる人たちのことがよく分からなかった。好きなアイドルがプライベートを晒されているのに怒らずにいられるのがよく分からない。あまつさえ拡散してネタにするのがよく分からない。犯罪と暴力以外のすべてはスキャンダルではなく、暴くほうが100%悪いのではないのか。人権よりも優先されるものがこの世にあるわけがない。

 

当の本人に真剣なまなざしで、まっすぐに「大丈夫、心配せず、頑張るぜ」と言われたって、正直言って本人は関係ない。私はハナから彼のことを心配しているわけじゃない。だって彼はプロだから、私を心配させてくれるわけがない。彼は大丈夫で、心配させない、頑張るアイドルだから、だから今日まで好きでいる。彼はどこまでもアイドルだから、クソみたいなあなたや私が何を思おうと今日も仕事をやり抜くのだろう。

 

彼が人間と社会のことをどれだけ信じているのかなんてずっと分からない。分かったためしがない。それでいいし、たぶん一生よく分からないままだろう。彼はたぶんとっくのとうに諦めているんじゃないかとずっと思っている。これもやっぱりよく分からない。分からなくていい。彼の本当のことなんてどうでもいい。この職業とそれを観る者の間においては彼がどんな人間かなんてどうでもいい。彼が何を伝えてくれるのかが愛であり彼の仕事である。

それでもやっぱり、私にとってはどうでもいいはずの人間がこの世のどこかに生きているのは確かであり、その人がどうか人間のことを信じていられたらと思ってしまう。私がいまこの世をどうにか諦めずにいられるのは、この世のどこかの人間が私の愛するエンタメをつくっているからで、どうかそのどこかの誰かさんも諦めずに生きていてほしいと思ってしまう。

 

私は彼ではなく私のために怒っているし、彼に興味がなくなってからも死ぬまでこの怒りを抱えて生きていくし、一生あなたのことを許さない。けれどまわりまわっていつか、どこかの誰かが諦めなくて済む世の中になっていてほしい。

こんな文章をインターネットに残すべきなのかも分からない。いつかこれを書いた理由なんて私以外の誰にも分からない日がくればいいと思う。こんなことで怒らなきゃいけない今日が間違いになる未来がくればいいと思う。こんな酷い時代があったんだと思える明日があってほしい。

 

どこかの誰かにとっての一番の幸せが、仕事なのかは分からない。私がその誰かにとっての幸せの一助になれるのかも分からない。でもきっと、どこであってもいいから、幸せになってほしい。自分のことを諦めないでいてほしい。